4:嘘のような真実

 

「説明してよ!何よコレ!!な・ん・な・の・よ!!」

由衣は炎が消えて一段落すると、ものすごい勢いで秋羅に迫った。

まあ、無理もないだろう。一日中今朝の事を考えていたうえに、

さっきは体から炎が出るという、ありえないことが起こったのだ。

「それは、あとで説明するよ。場所を変えよう。ここだと座るところもないし。」

由衣の剣幕に少々怯みつつ、秋羅は勝手に歩きはじめる。

「ちょ・・・ちょっと待ちなさいよ!」

由衣はもちろん彼に従うしかなく、苛立ちを抑えながら彼について行く。

 

二、三分歩いて着いたのは近くの公園だった。もう暗くなり始めているせいか人っ子一人いない。

「ここで話そう。そこのベンチ座ってさ。」

さっきまでの怒りは二、三分歩いたおかげで、なんだか和らいでしまったらしく素直に従う由衣。

由衣がベンチに座ると、秋羅は立ったままで話を始めた。

「君の名前は?」

「由衣よ。麻生由衣。」

「由衣。今から言うことに、多少驚くと思うが、最後まで黙って話しを聞いてくれ。」

秋羅の問いに、由衣は「わかった。」と返事をする。

というか、今朝も、さっきも十分驚かされたのだから、さして驚かないだろうと思っていた。

 

「まず、俺はこことは別の世界の人間だ。そして、この世界に助けを求めてやってきた。」

由衣は予想に反して驚いたが、先ほど言われたとおりに黙って話を聞いた。

「この世界には由衣を合わせて6人、俺の世界を救う力を持つ者がいるんだ。」

「あ!ちょっといい?」

ここで由衣はたまらず口を挟んだ。

「どうして私が秋羅の世界を救えるってわかるの?私普通の高校生なんだけど・・・。」

 

たしかにその質問はもっともだった。

由衣は、勉強や運動など、割と何でもそつなくこなしたが、

剣術や弓道のような武術が特別優れているというわけではなかったし、

超能力とか、霊能力とかいった類の特別な力も持ち合わせていなかった。

 

「石だ。由衣が持っていた石。」

それは由衣が昨日の帰りに下駄箱で見つけたあの石のことだった。

先ほど拾って、またポケットに入れておいたそれを由衣は取り出し、しげしげと眺める。

「その石はただの石じゃない。力のないものが見ても、ただの石ころにしか見えないんだ。

力のあるものが持つと宝石に変化し、その人に石の持つ力を委ねてくれるんだ。」

「あの石・・・。そんな力が秘められていたのね。」

秋羅は話を続ける。

「由衣が持っている石はガーネットという名前の石だ。火の力をもっている。

さっき由衣の体が燃え始めたのは、石の力が暴発したからなんだ。

その石のほかにも石は11個あって、戦士はそれぞれ石の力を引き出して戦う。

ちなみに俺の石はルビー。光の力を持っているんだ。」

秋羅が人差し指を突き立て、少しすると、だんだんと光の玉が指の先にでき始める。

「すごい・・・。それが力なのね。」

由衣が光に見入っていると、光はふわっと宙に解けるようにして消えていった。

 

秋羅は少し考えると、再び話し始めた。

「今日はここまでしか話せない。もし由衣が俺の世界を救う手伝いをしてもいいと思ったら、

明日の朝、ここに来てくれ。続きはそこで話すことにするよ。」

そう言って秋羅は由衣にメモ用紙を手渡す。

そこには『magical stone』と書いてあった。最近この近くにできた天然石の店だ。

「もし明日ここに行くとどうなるの?」

由衣が不安そうな顔で尋ねる。

「少しの間この世界を抜け出して、一緒に俺の世界に来てもらうことになる。」

公園の中を一筋の風がヒュゥッと通り抜けた。

しばらくに沈黙の後、秋羅はクルリと向きを変えて、

「じゃ、明日会える事を期待してるよ。」

と言うと、公園から去っていった。

 

秋羅が去った後由衣は空を見上げていた。空はもう日が落ち、一番星が顔を出していた。

 

 

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