3:暴発

 

ハァハァ・・・・

 

学校にはギリギリセーフで間に合った。

全速力で走ると、いくら運動が得意だからとはいえ、やはり横っ腹が痛い。

「あ!由衣!おはよ!どうしたの?なんかいつもより来るの遅いね。」

教室の自分の席に座り、ぐったりとうなだれていると、クラスの友人が声をかけてきた。

「おはよ!ん〜〜と・・・え〜と・・・ちょっと寝坊しちゃってね。」

さすがに今朝起こった出来事を話したとしても、信じないだろうと思って、寝坊した。と嘘をつく。

 

ガラガラガラ

 

教室の前の扉が開き、担任の先生が入ってくる。

学校の退屈な授業の始まりだ。

 

しかし今日はいつもと違っていた。

数学、国語、社会、英語と授業の退屈さは変わらなかったが、

授業中、自然と、今朝起こった出来事について考えをめぐらせていたからだ。

もしかしたら、あの光は、何か仕掛けがあったのではないかとか、

秋羅と名乗った男は、何かのセールスマンではないかとか、そんなことを考えていた。

国語の時間にいたっては、先生の問いかけに対して、応じられないくらい

考えていたらしく、大恥をさらしてしまった。

 

「はい。では、号令。」

「起立。礼。さようなら。」

結局今朝のことを考えているうちに四時間の授業はすべて終了してしまった。

今朝のことを考えずにいられなかった。

由衣は無意識のうちにあの石や秋羅に、完全に興味を抱いていた。

 

帰り道。秋羅はまだあらわれていない。

「また後で。」と言い残して去っていったのだから、もう一度現れるはずだと由衣はふんでいた。

どうしても、もう一度会いたかった。会ってあの石のことや、光のことを聞きたかった。

とりあえず由衣は、今朝、秋羅と会った場所へ行き少し彼を待ってみることにした。

 

「う〜〜ん・・・。来ないな〜。」

二十分くらい待ったが、秋羅は現れない。何かの勘違いだったのか・・・という思いが頭をよぎる。

ふとポケットに手を入れると、あの赤い石が手に触れる。

石は昨日からポケットに入れっぱなしになっていた。

ポケットから石を取り出し、まじまじと見つめる由衣。

その色は、ちょっと黒っぽいけど、澄んだ赤色・・・。まるで、燃え盛る炎みたいだった。

 

「モエサカルホノオミタイ・・・・。」

そう思った瞬間の出来事だった。

急に由衣は手のひらやら胸やら、とにかく体中が熱くなっていることに気付いた。

夏の暑さなんて目じゃないと思われるくらいの熱さだった。

「何で・・・何でこんな熱いんだろう・・・。なんかおかしいな・・・・。」

 

ボォォォォォォォォ!!!

 

思考の途中でついに由衣の体中から炎が燃え上がった。

「え・・・・?な・・・・なにこれ!!!!」

ありえないことが起こっている。自分から炎が出ている。由衣には何が何だかわからない。

しかも、体中から炎が出ているのに、彼女自身意識ははっきりしていて、

汗もかいていないし、火傷一つしていなかった。

 

ゴォォォォォォォォォォォォォ!!

 

由衣から出ている炎はどんどん大きくなっていった。

近くを舞っていた木の葉にボッと火がつき、一瞬のうちに灰になる。

「もう!!!いったいなんなのよ!!これは〜〜!!??」

このままだと、火の勢いがさらに増し、周りの木々や家に火がついて大変なことになってしまう。

しかし、自分でもどうしてこんなことになったのかわからないし、

むろん、自分で止められるはずもなかった。

 

「石を離すんだ!!!」

その時、どこからか、あの秋羅の声がした。

「石?」

そういえば、こんなに大変な状況にもかかわらず、

由衣はあの赤い石を、手にぎゅっと握ったままだった。

「石を手離せばおさまる!!」

その声で、由衣は石をコロンと地面に落とす。

すると、激しく燃え盛っていた炎は、みるみるうちに小さくなり、

やがて何事もなかったようにすっかり消えてしまったのだ。

 

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