2:非日常の序曲2

 

目の前を横切った何か。突然声をかけてきた面識のない男。

由衣はとっさのことに混乱していた。

「な・・・なんですか?いきなり。」

由衣の頭の中が混乱していることなんて、気にも留めない様子で、

秋羅と名乗った男は、先ほどの質問を復唱する。

「今暇かな?」

「・・・・・・。」

もちろん由衣は返す言葉もない。

 

なんだろうこの人は・・・

どっかで会ったこと・・・・・いや、ないなぁ。

暇かって?暇じゃないんだけど・・・。

 

いろいろなことが頭の中を駆け回り、由衣がその場で棒立ちになっていると、

秋羅は顔に笑みを浮かべながら自分の手を鉄砲の形に構えて由衣に向けてきた。

 

今度は一体なんなのだろうか。

 

この意味不明と思われる行動に、さらに由衣が戸惑っていると、

彼の指先が光りだし、その光が由衣の方に向かって飛んできたのだ。

 

ヒュン!

 

バッ!!

 

「キャッ!」

由衣はとっさに右の方向に飛び、その光線らしきものをかわした。

由衣の反射神経がいいのは彼女の持ち前の運動能力のたまものである。

それよりなにより、指先から光線が出るなんて後にも先にも聞いたことも見たこともない。

「な・・・なにその・・・光?」

そう言いながら、光の飛んでいったほうを見ると

光があたったと思われる電柱の一部が、ぽろっとかけていた。

由衣の顔から、さーーっと血の気が引く。

 

「びっくりした?この石の力なんだ。」

やっぱり由衣の様子には目もくれず、秋羅が取り出したその石は昨日由衣が見つけた石となんだか似ていた。

色は由衣のものとは違い、淡く白っぽい色をしていた。

「あ!・・・その石。たぶんあたしも似た石持ってる。あたしのは赤くて柘榴みたいな色なんですけど・・・。」

やっと共通らしき話題がでてきて、由衣はわらをもすがる思いでその話題に反応する。

でも、表情は血の気が引いたまま。とりあえず秋羅の反応を待つ。

「だろうね・・・。」

秋羅はそう言ってにこにこ笑っているだけで、特にその話に乗っかる様子はない。

なんで乗っかからないの!!と心の中で憤慨する由衣。

どうすればいいかわからず、固まっている由衣に、秋羅は、さっきから何度も言っている内容を口にする。

「ところで、今時間無いの?なんか急いでるみたいだけど。」

「あ・・・え?ああ、学校行かなくちゃ行けないんです。」

そうだ、今は学校に行かなくてはならないのだと、

さっきよりも、冷静に頭が回り、答える由衣。

 

秋羅は少しうで組して考えたあと「じゃ、また後で。」とだけ言い残して、

何事もなかったかのように立ち去ってしまった。

そんな秋羅の後姿をぽかぁ〜んとした顔で見ている由衣。

なんなんだろう。

あの秋羅という男自身のこと。指から出た光のこと。昨日、突然姿を現した石のこと。

由衣の頭の中には、たくさんのな謎が駆け巡っていた。

 

 

ふと、時計を見ると、針は八時十五分をさしていた。

由衣の表情が見る見るうちに凍る。

「やばい!!遅刻だ!!」

そう小声でつぶやくや否や、全速力でバス停まで走り出す由衣。

 

由衣の日常のリズムが、だんだんと崩れ始めてきた・・・。

 

 

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