24:嵐が去って2

 

”つかさくん”というのは、由衣たちの世界からこちらの世界にやってきた男の子のことで、

萌花と士(つかさ)は、初めて逢って、互いに一目惚れし、恋人同士になった仲なのだ。

「萌花。士に何かあったの?」

美月は、目から大粒の涙をこぼす萌花を優しく撫でながら尋ねる。

 

「うっ・・・・うん・・・・・。」

萌花はか細い声で美月の問いに答える。

「つかさくん・・・く・・・くるしん・・・・でた・・・・電気流されて、変な薬飲まされてて・・・。」

どうやら萌花は、本拠地が襲われたあとに、一度意識を取り戻し、

士をはじめ、真琴と式部という、こちらの世界の仲間が操られていく様子を見ていたようだ。

「辛かったな・・・萌花・・・。」

萌花の様子から、萌花もひどい仕打ちを受けていたことを察し、秋羅も萌花の頭をそっと撫でる。

 

「萌花や大樹だけじゃなくて、士や式部、真琴も操られているなんて・・・。」

秋羅は立ち上がり、空を見上げて苦々しくつぶやいた。

「これから、もっと力をつけていかなければ、次は確実にやられるな・・・。」

秋羅だけではなく皆も、同様のことを考えていた。大樹と萌花が操られていた先ほどの

戦いですら、全くと言っていいほど手が出せず、危うく全員死んでしまうところだったのだ。

今回は、運よく敵が混乱したために切り抜けられたが、次の戦いでは、確実に

こちらの負けとなるだろう。

 

「すみません・・・ちょっとよろしいですか?」

部屋に入るタイミングをうかがって、真理亜が部屋に入ってきた。

「真理亜さん!お体の方はもう平気なんですか?」

「ええ。亜理亜と零亜のおかげで、すっかり回復しました。心配しなくても大丈夫ですよ。杏さん。

飲み物を持ってきました。レンの森でとれたナパの葉で作ったお茶です。お召しがりください。」

真理亜は皆の前にナパ茶の入ったカップを置いて回る。

「それから・・・。」

真理亜はカップを置いて回りながら話を始めた。

「神精に会ってみてはどうでしょうか・・・。」

 

「しんせい??ってなんですか?」

杏をはじめ、別の世界から来た五人はさっぱりわからない様子だ。

「神精というのは、神が力を分けて創りだしたいわゆる神の分身のことです。

彼らは神と違ってそれぞれに一つ属性を宿しています。彼らに会えば、

何か知恵を授けてくれるかもしれません。」

「そうなんだ。そんな方法があるなら早く言ってくれればいいのに!」

瞳たち五人には希望の光が見えたようだが、秋羅、美月、萌花の三人はそうでもない様子だ。

「どうしてそんなに浮かない顔をしているの?」

三人の様子に気付いた由衣が、不思議そうな顔で、彼らを見つめる。

「そんなに簡単なことではないんだよ。神精を仲間にするのは・・・。」

美月が深刻な顔をして話を始める。

「神精っていうのは、神の分身だから、そりゃあ神に匹敵する力を持っているのは

確かなんだ。でも、神の分身であるが故に、彼らも神と同様の考えを持っているかもしれない。

そう考えると、神精に今会いに行くのは、かなり危険なことだと思わないか。

第一、神精がどこにいるかは定かではないし・・・。」

「でも、リスクを負って会いに行く価値はあるんじゃないの?」

健一朗がダメ押しをしてみるが、美月たちは首を横に振る。

「今はダメだ。神や神精について、もっと情報を得られれば考えられなくもないけどね。

有効な方法であることには違いないし。」

「私が言い出したことなので、できる限り情報を集めてみます。私は、神が元来あのような心を

お持ちであるとは考えたくないのです。神の真意を知るためにも、私に協力させてください。」

「真理亜さん。お願いします。」

八人は真理亜の申し入れを快く受け入れた。むしろ八人にとっては心強いことだ。

 

「わたし、思うんだけど、今一番にとるべき行動は、ルーブ市に行くことじゃないかな?」

ここで、すっかり泣き止み、落ち着きを取り戻した萌花が口を開く。

「ももちゃん・・・。それは何でなの?」

大樹をはじめ、萌花以外の七人が彼女の方を一斉に見る。

「私の記憶からすると、多分本拠地からあの場所に連れて行かれたのは、わたしと、

大樹くんと、士くんと真琴さんと式部さんの五人なのよ。だから、きっと光湖さんは、

ルーブに戻っているんじゃないかと思うの。」

「そうか!確かに萌花の言う通りかもしれない。」

 

秋羅、美月、大樹、瞳、健一朗の五人は、萌花の言っていることを理解できたが、

新米組の由衣と杏のまわりには、いまだクエスチョンマークが飛び交っている。

「ねえ!一体どういうこと?」

「光湖さんって誰なんですか?」

由衣も杏も自分たちだけわからないことが、もどかしくて仕方ない。

 

「光湖っていうのは、トゥエルブストーンに選ばれた仲間の一人で、うちらのリーダーでもある人だよ。」

「んでもって、ルーブ市長の娘なんだ。だからルーブ市に向かうべきだってことさ。」

「すっごく綺麗で、落ち着いてて、大人って感じの人で・・・・。」

「なんかやたらと怖いイメージもある・・・。」

美月、秋羅、瞳、大樹が各々の光湖像を語る。

「ふ〜ん、そっか私たちにもリーダーがいたのね。」

由衣は”リーダー”ということだけはとりあえず分かったという様子、

外見や性格については、空をにらんで想像と格闘中である。

「なんとなくイメージはつかめました。」

杏は外見や性格を想像して、うっとりといった感じ。

 

「では明朝、早速ルーブ市に向かうことにしよう。」

最後に美月がまとめ、話は一段落した。

まだ希望の光は見えないが、とにかく前に進むことはできる。

前に進めば、希望の光が見えるはず。そんな想いを抱いて、八人は前に進む。

 

 

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