19:降臨失敗!?

 

「で、そこで私が一発びしっと言ってやろうと思って、そいつのところに行ったわけ!!」

 

初めの十分間くらいは各々静かにくつろいでいたのだが、十分立った後くらいから、

健一朗と話していた瞳の声が大きくなりだした。そして仕舞いには、

うとうとしていた由衣や読書をしていた杏と秋羅、ましてや、今後のことを考えていた

美月まで、瞳の話が気になって気になって仕方なくなり、瞳のそばに寄ってきて、

その話に聞き入っていたのだ。

 

「そうしたら、そいつ、顔色変えて逃げ出しちゃってさ。ま、当然追っかけたんだけど・・・」

瞳の話は更に続く。そして、止まる気配はない。

実は、五分くらい前から、由衣たち以外にもその話を聞いているものがもう一人いた。

零亜だ。

先ほどからすでに一時間が経過し、祈祷ができるようになったため、由衣たちを呼びに来たのだが、

瞳の話に皆が聞き入っていたので、声をかけるタイミングが分からず、一緒に聞いてしまっていたのだ。

「あの〜・・・」

話が終わるのを待っているわけにはいかないので、零亜は意を決して、少し遠慮がちに声をかける。

「祈祷の準備が整いましたので、祈祷の間においでください。」

「もう一時間たったんですか?」

「瞳ちゃんの話が面白いから、何かあっという間だったね。」

「あ、面白かった??それならよかった。なんか話し出すと止まらなくて。私ばっかり喋っちゃったね。」

杏と健一朗の言葉に、瞳は少し照れている様子だ。

「ほら、早く行くぞ!」

美月と由衣が零亜に連れられて、もう部屋から出て行ってしまったので、

秋羅が部屋の入り口から三人を急かす。

「はいはい。わかったわよ!」

瞳が返事をして駆け出す。健一朗と杏も急ぎ足で祈祷の間へと向かう。

 

 

 

「それではこれから、祈祷を行いたいと思います。申し遅れましたが、

私は陸の神殿の司祭であり、陸神の代弁者、真理亜と申します。」

祈祷の間へと移動した一行は、祭壇の前に並び、司祭である真理亜の話にじっと耳を傾けていた。

真理亜は先ほどとはうって変わって、きらびやかな衣装を身につけ、奇怪なメイクを全身に施している。

さらに、目つきも先ほどの様にやさしいものではなく、真剣な眼差しをこちらに向けている。

「今から私の体を介して陸神の言葉をいただき力を授けていただきます。

どうやらそちらのお嬢さんは、陸神が司っている火の属性を持っているようですからね。」

真理亜は由衣を見つめ、語りかけるように言葉を放つ。

それに応えるかのように、由衣は表情をきっと引き締め、真理亜の目を見つめ返す。

それを見て真理亜は少し表情を緩めにこっと笑うと、陸神を呼び出すかのような言葉を唱え始めた。

「我はこの世の民にして、神に仕えし者なり。今、この世の狭間を超え、我らに姿を示したまえ

我はこの世の民にして、神に仕えし者なり。我らに壮大たる加護と力を与えたまえ」

 

 

ドォォォォォォォォン

 

 

真理亜が言葉を唱え終わると、真理亜の体に光が降り注ぎ、大地が一度だけ唸りをあげる。

やがて、光が降り止むと、真理亜の体は力を失い、どさっとその場に崩れ落ちてしまった。

「司祭様!」

亜理亜と零亜が真理亜のもとに駆け寄り、その体を優しく抱き起こす。

真理亜はどうやら意識がないようだ。

「く・・・また失敗か・・・。」

「失敗??」

亜理亜がつぶやいた言葉に美月がすばやく反応する。

「どういうことだ?」

秋羅も不安そうな顔で亜理亜にたずねる。

「すみません・・・・実は、世界が異変を起こすようになって以来、陸神が

司祭様の体に降りてこられなくなったのです。しかし、私どもにも理由が全く分からず、

とりあえず祈祷は続けているのですが、失敗続きで・・・」

亜理亜はうつむいて申し訳なさそうな顔をする。

「私たちも一生懸命取り組んでいるのですが、どうしてか、陸神は答えてくださらないのです。

わざと失敗しているわけではないのです。どうかお許しください。」

続けて零亜も申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「いいんですよ。顔を上げてください。」

「そういうことがあるなら先に言うべきだと思うぞ。」

美月と秋羅は落ち込んでいる二人を見兼ねて言葉をかける。

他の四人も怒っている様子はない。皆、亜理亜と零亜が嘘をついていると思えないし、

何より司祭である真理亜は、体を張ってまで祈祷に臨んでくれたのだから、

別に怒りはしないという気持ちのようだ。

「皆さん・・・・・ありがとうございます。」

零亜は皆の言葉を聞いて涙を流す。

「お力になれなくて申し訳ありません。」

亜理亜も顔を上げ、残念そうに謝る。

「いいのよ。正直私、力を授けるなんて言われて、柄にもなく緊張していたから、

かえって気が楽になったわよ。」

 

フフ・・・・・

 

由衣の言葉を聞き、不気味に笑い声をもらすものがいた。

 

フフフフ・・・・・

 

司祭の真理亜だ。

「フフフ・・・力を授けろなどと言われても、誰が貴様なぞに力を授けるか、小娘が!!」

 

ドォォォ!!!

 

うわ!

キャア!!

 

真理亜が言葉を発し終わると同時に、風のようなものが起こり、皆、吹き飛ばされてしまう。

 

「し・・・司祭様・・・?」

吹き飛ばされる距離が一番短かった零亜が真理亜のもとに駆け寄る。

「ふ・・・司祭というのはこの体のことだろう。私はリク。陸神だ。」

「陸神!?では・・・祈祷は成功したのか???」

零亜も亜理亜も訳が分からない様子だったが、他の六人は突然発覚した

最悪の事態に驚きを隠せずにいた。

「リクって・・・・・お前はあのときの・・・・陸神だったのか。」

そう、彼女は前に、ソラという少女とともに現れ、六人に危害を加えたあのリクなのだ。

「そうよ。私は陸神。あの時は、お前らの力を甘く見て油断をしたが、今回はそうはいかないわ。」

リクは冷徹な目で八人を見つめている。

 

「しかし、この間のことも考えて、今日は私の下僕を連れてきたわ。あなたたちに私の下僕が倒せるかしら。」

そう言ってリクが空に手をかざすと、黒紫の塊があらわれ、地面に降り立った。

すると、だんだんとそれは人の形を成していき、周りを覆っていた影みたいなものが晴れていく。

そして、現れたリクの二人の下僕に、由衣、杏を除く四人は驚き、戸惑っていた。

「!!!!」

「も、萌花・・・・・・・・・・・大樹?・・・・・・・・・・。」

「フフフ・・・・・。さあ、楽しませて頂戴。」

リクの不気味な笑いが音のなかった空間に響いた。

 

 

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