17:守り人
バリバリバリバリ・・・・
ゴォォォォ・・・ドンッ!
瞳の雷球と由衣の炎球が、フォレストウルフを襲う。
雷球、炎球とはいっても、威力を抑えて技を繰り出していたため、
フォレストウルフは、それほど深い傷も負わずに、「キュ〜ン」とひるんで逃げていってしまった。
「由衣も瞳も大分技を使い慣れてきたな。」
秋羅が満足そうに首を縦に振りながら言う。
「それはそうと、いつになったら陸の神殿に着くのよ。もうへとへと・・・。」
秋羅の褒め言葉を無視して、瞳は顔を歪めて座り込んでしまう。
レンの森に入ってから、すでに半日が経過しようとしている。
その間、主に戦いをしていたのは、由衣と瞳の二人だった。
健一朗と杏は、攻撃補助や防御の力しか持ち合わせておらず、
秋羅と海月は、「鍛錬だ。」とかいって、あえて二人に攻撃を任せ、
アニマの特徴や注意点を教えたり、時々フォローをしたりしかしなかった。
そのため、由衣と瞳の疲労は頂点に達しているのだ。こんな言葉が出るのも無理はない。
「お、そろそろへばってきたか。仕方ない。もう到着しちゃいますか。」
ぜぇぜぇ言っている二人を見兼ねて、秋羅がこう言い放つ。
「トウチャクシチャイマスカ???」
秋羅の言葉に、疲れた脳がうまく理解を示せない由衣、杏、瞳、健一朗の四人は、
頭の上にクエスチョンマークをつけながら黙って秋羅についていく。
秋羅について歩くこと四、五分歩くと、突然、今までの景色とはうって変わって、開けた場所に出た。
「よし、着いたぞ。ここが陸の神殿だ。」
陸の神殿。
それは一言で言うと大きな洞窟だった。
ただ、中はきちんと明かりが灯されているようで、入り口らしきところから淡い光が漏れているのが見える。
入り口の前には、三、四段の広い階段が設置されており、その階段の両脇には、何やら、岩でできた像が立っていった。
神殿の目の前は一面の花畑で、それらが太陽の日に照らされてきらきら輝いているようで、
上を見上げると、空なんか見えないくらいの太陽の光が降り注いでおり、とても穏やかな陽気だ。
とにかく、そこはとても綺麗な空間だった。
由衣、杏、健一朗は、その美しさに感動していたが、
一人だけ、その美しさには目もくれず、秋羅に食って掛かる少女がいた。
「ちょっと!さっき、『到着しちゃいますか』とか言ったわよね。
それって、こんなに時間をかけなくてもここに来れたってこと!?」
そう、瞳だ。
先ほどまでは秋羅の言っていることがいまいち理解できない様子だったが、
やっとその意味を理解し、だんだんと怒りがこみ上げてきた様だ。
「そうだ。」
「『そうだ』ですって!!?あんたが遠回りだかなんだかしたおかげで、余計な体力消耗したじゃない!」
秋羅がその事実を認めた瞬間、次の言葉を待たずに、さっきよりもすごい勢いで食って掛かる瞳。
多少回復したとはいえ疲れているうえに、すごい勢いで喋った所為で、またぜぇぜぇと息を切らせている。
そんな瞳の勢いに怯みつつも、秋羅は先ほどの言葉の続きを口にする。
「みんなの実戦経験を高めておきたかったんだ。せっかく鍛錬を積んだのに、長い間戦闘しなかったら、
技を使うタイミングとか、どれくらいの力を出したら疲れてくるのかとか、分からなくなるだろ。」
意外や意外、秋羅の行動に正当な理由があったため、「うっっ」とうろたえてしまう瞳。
怒りのやり場がなくなり、ぶすっとした顔で押し黙ってしまう。
「まあ、いいじゃないですか。結果的にはちゃんと陸の神殿に着いたんですから。」
杏がそんな瞳を見兼ねて慰めに入る。
「ねえ、せっかく着いたんだから早く入らない?」
瞳と秋羅のやりとりが終わったのを見て由衣が提案をする。
「そうだな。早く入ろうか。」
秋羅が賛成の意を唱え、一同は陸の神殿に入ろうと歩み始める。
光の降り注ぐ花畑を抜け、一同が、ほのかに灯りがともっている神殿の入り口に
差し掛かった時だった。
「待ちなさい!」
強く通る声がしたかと思うと、神殿の入り口から二人の女性が現れたのだ。
「あなたたちは何者ですか?」
「ここは地の神殿。聖なる場所です。軽々しく足を踏み入れるべき場所ではありません。」
「私たちは、陸神に祈りを捧げに来ました。失礼ですが、あなた方は、地の神殿の守り人の方ですか?」
五人があたふたする中で、即座に言葉を発したのは、美月だった。
「いかにも私たちは、地の神殿の守り人です。私は亜理亜と申します。」
黄土色の長い髪の毛をてっぺんで一つに結わいている女性、亜理亜が、先ほどとは違った温和な表情で、答えを返す。
そして、アリアの隣にいる、同じく黄土色の長い髪の毛を、二つに結わいている女性が話を続ける。
「私は零亜です。あなた方は参拝者だったのですね。ようこそいらっしゃいました。
最近では、おもしろ半分でこの神殿に近づく方たちが多いものですから・・・先ほどの無礼をお許しください。」
「いえ、気にしないで下さい。お勤めご苦労様です。」
美月はほっとしたと言う感じで言葉を返す。他の五人も、先ほどのきつい態度の理由がわかり、胸をなでおろす。
「さあ、どうぞ、中へお入りください。」